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横浜地方裁判所 平成3年(ワ)1708号 判決 1994年6月06日

原告

佐藤幸子

ほか一名

被告

江ノ島電鉄株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告佐藤幸子に対し一七五四万七二六四円、原告佐藤魁に対し一〇〇万円、及びこれらに対する昭和六二年五月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三は原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  右一は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告ら

(一)  被告らは、各自、原告佐藤幸子に対し六九〇六万円、原告佐藤魁に対し五〇〇万円、及びこれらに対する昭和六二年五月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告らの負担とする。

(三)  仮執行宣言

2  被告ら

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  当事者の主張

1  請求原因

(一)  事故の発生

原告佐藤幸子(以下、便宜、単に「原告」ともいう。なお、原告佐藤魁は「原告佐藤魁」という。)は、昭和六二年五月二五日午後一時六分ころ、被告江ノ島電鉄株式会社(以下「被告会社」という。)の所有する被告五木田清治(以下「被告五木田」という。)運転の大型バス(以下「加害車」という。)に乗客として乗車中、同車が神奈川県藤沢市南藤沢一丁目一番地先路上の藤沢駅バス停において乗客の下車のために停車した際、同所で下車しようとして料金支払のため小銭を取り出そうとしていたところ、被告五木田が乗客の下車が完了したと誤信して加害車を突如発進させたため、同車内において大きく転倒し、身体全体を床にたたきつけられ、傷害を受けた。

(二)  責任原因

(1) 被告五木田

被告五木田には、本件事故について、乗客の下車が完了したと誤信して加害車を急に発進させた過失があるから、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。

(2) 被告会社

被告会社は、本件事故発生当時、加害車を所有してこれを自己の事業のために運行の用に供していた者であるから、本件事故について自動車損害賠償保障法三条に基づく損害賠償責任がある。

(三)  原告佐藤幸子の損害

(1) 受傷、入・通院及び後遺障害

<1> 原告は、本件事故により、左大腿骨頸部内側骨折(偽関節)、両下肢筋力低下症等の傷害(以下「本件傷害」という。)を受け、その治療のため次の入・通院を余儀なくされた。

ア 昭和六二年五月二六日から昭和六三年三月二三日まで(約一〇か月)、医療法人南浜会鈴木病院に入院

イ 昭和六三年三月二三日から同年九月二二日まで(六か月)、富士温泉病院に入院

ウ 昭和六三年九月二三日から現在まで、医療法人湘和会湘南記念病院に通院

<2> 右の入・通院による加療にもかかわらず、原告には、平成三年一月末日をもつて症状固定とされた次の後遺障害(以下「本件後遺障害」という。)が残つた。

ア 左大腿骨頸部骨折が骨癒合を得られず、偽関節を形成し、大転子変位著名(大腿骨の一部である大転子が正常の場所〔ローザーネルトン線上〕にないこと)、股関節は動揺性大(動くと方向と範囲が正常値を超え異常であること)で、右股関節より著しく不安定であり、歩行に際し患肢では体重負荷が困難で、墜下性軟性跛行(短縮だけで起きる硬性墜下跛行に対するもので、体重が負荷されたときに股関節がしつかりつながつていないため、これを支えきれず、跛行の幅や受ける感じにばらつきが生じるもの)を呈し、その際、疼痛のため常時両杖を必要とし、生活には付添看護を要する。

イ 左下肢が六八センチメートルとなり、右下肢の七三センチメートルに対して五センチメートル短縮した。

ウ 本件後遺障害は、右のとおり、左大腿骨骨折で偽関節を残し、著しい運動障害を残すもので、それは後遺障害等級七級一〇号に該当するが、左足が五センチメートル短縮しているため五センチメートルの補高装具を装着してしか歩行できず、しかも筋力低下が著しいため両肢によつて辛うじて歩行が可能というもので、通常付添看護を必要とすることなどからすると、実質的には少なくとも五級に相当する。

(2) 右による具体的損害額

<1> 治療費 八八三万一〇七七円

平成元年一一月までの分である。

<2> 付添看護費

ア 後遺障害確定前の付添看護費 一〇六五万五二七八円

被告会社は、後記のように完全な補償を約束したところ、原告は、事故後平成三年一月末日の後遺障害確定まで自分で立つて動作をすることが不可能であつたため、やむなく付添看護人を付した。事故から後遺障害確定までの間に要した付添看護費は一〇六五万五二七八円である。

イ 後遺障害確定後の付添看護費 一七一三万円

ⅰ 原告は、終生本件後遺障害を負担していかなければならず、日常生活上付添看護人を必要とし、現に後遺障害確定後現在まで月額一九万円前後の付添看護費を支出している。これは終生、すなわち少なくとも平均余命一二年にわたつて続けざるを得ないものであり、その金額は二四四七万二一五一円となるところ、後遺障害の等級を勘案し、そのうちの七〇パーセントに当たる一七一三万円を後遺障害確定後の付添看護費として請求する。

ⅱ なお、右の付添看護費の必要性については、本件後遺障害が実質的には五級相当とすべきである旨主張した事情に加え、担当医師において付添看護を要すると診断し、現に後遺障害確定後も付添人を派遣させて生活してきている実態に照らしても明らかである。

<3> 入院雑費等 二〇三万八五七八円

<4> 交通費 一七七万一三六〇円

<5> 愛犬預託金 一三二万三〇〇〇円

<6> 休業損害 一一〇〇万円

原告は、本件事故当時、東京都千代田区外神田三丁目五番五号所在の魁産業株式会社(以下「魁産業」という。)の監査役として勤務し、月収二五万円の給料を得ていたが、本件事故のために昭和六二年六月三日に退職を余儀なくされ、以来、本件後遺障害確定の平成三年一月末日まで四四か月分の所得を失い、一一〇〇万円の休業損害を被つた。

<7> 後遺障害による逸失利益 一二一六万円

原告は、大正四年一一月二〇日生まれの女性で、家庭の主婦として家事に従事するとともに、昭和五九年四月から昭和六二年六月まで魁産業の監査役として勤務し、前記のように月収二五万円(年収三〇〇万円)の所得を得ていたが、本件事故により退職を余儀なくされた。

右による逸失利益は、就労可能年数を平成三年二月一日時点の平均余命一二年の二分の一の六年、労働能力喪失率を七九パーセントとし、右六年についての新ホフマン係数五・一三三六を適用して算定するのが相当であり、次の計算のとおり一二一六万円となる。

(三〇〇万円〔年収〕×〇・七九〔労働能力喪失率〕)×五・一三三六(六年の新ホフマン係数)=一二一六万円(一〇〇〇円未満切捨て)

なお、原告の後遺障害の程度について、鑑定では後遺障害別等級表の七級で妥当であると判断されている。しかし、右等級表の構成は、例えば、手足が存在していても、筋力低下等によつてその機能が果たせないといつた、身体全体の実質的機能障害ないし機能低下等の障害について十分には考慮されていない恨みがある。したがつて、逸失利益算定に当たつての労働能力喪失の程度については、労働能力喪失率表の喪失率を基準としつつも、職種、年齢、性別、障害の部位・程度や日常生活上の障害の程度などの具体的状況を十分考慮して判断されるべきである。しかるところ、原告の両下肢は筋力が著しく低下しており、しかも左右の長さが違う。左足は、これと腰の骨とを接続させている股関節がくつついていないため、常にブラブラしている状態であり、しかも右足より五センチメートルも短いので、身体を支えて歩行するという機能をほとんど喪失している。さらに痛みも残存している。そのため、原告は、歩行が著しく困難で、家の中ですら両脇杖を用い、補高靴を履いてやつと歩行しているという状態であり、立つていることも著しく困難であることから、洗濯、炊事等の家事一切をすることができず、また、外出には車椅子を必要とするなど、労働そのものが全く不可能で、付添いなしでは生活できない状況にある。このような日常生活の実体を考えると、原告の実質的な労働能力喪失率は八〇パーセントを下ることはあり得ない。右の結果として、逸失利益については、五級相当のものと同程度の労働能力喪失率をもつて損害額が算定されるべきである。

<8> 慰藉料

ア 入・通院による慰藉料 三五五万円

イ 後遺障害による慰藉料 一一〇〇万円

ウ 増額分・補完性分 四三六万円

ⅰ 本件事故の発生については、被告五木田に著しい乱暴運転という重過失があつたこと、ⅱ 被告会社の強い要望と、同被告が目に見えない損害を含め完全な補償をするからと確約したため、本件事故は警察に届けられずに処理されていること、ⅲ 事実上終生付添看護を要し、夫(原告佐藤魁)との老年生活を台なしにされたこと、ⅳ 老年のため他の合併症を併発ないし悪化させたこと、ⅴ 慰藉料の補完性の視点からの考慮が必要であること、等の事情からすると、慰藉料としては、右ア及びイの合計額一四五五万円の三〇パーセントの増額分が認められるべきである。

<9> 弁護士費用 六〇〇万円

<10> (損害額の合計) (八九八一万九二九三円)

(3) 損害の填補 二〇七五万三八二七円

原告は、本件事故による損害について、被告会社から合計二〇七五万三八二七円の支払を受けた。

(4) 残損害額 六九〇六万円

損害額合計から填補額を差し引くと残損害額六九〇六万円(一万円未満、切捨て)となる。なお、以上の内訳の概要は、別紙のとおりである。

(四)  原告佐藤魁の損害(慰藉料) 五〇〇万円

原告佐藤魁(明治三八年一二月生まれ。事故当時八二歳。)は原告佐藤幸子の夫であり、昭和四七年から現住所で同原告と老夫婦二人だけの老後の楽しい生活を送つてきていた。ところが、原告が本件事故によつて傷害を受け、鈴木病院その他の病院に入院したため老人一人の生活を余儀なくされ、八〇歳を超えた老骨に鞭打つて自分自身で家事一切をするだけでなく、鈴木病院入院の際は毎日のように病院に見舞い、着替えの世話や食事の補助をするなど、その年齢にしては極めて労苦の多い生活を強いられた。原告は、退院後も事実上寝たきり同様の生活であるため、月曜日から金曜日まで家政婦を頼んでいるとはいえ、朝食の世話や、土曜日・日曜日には原告佐藤魁が事実上家事を行わざるを得ない状態にある。そして、原告が病院等に行く以外は家からほとんど出られないため、従前は時折二人で出かけていた旅行等も全くできず、人生最後の生きがいを喪失させられた状態である。

右による原告佐藤魁自身の精神的苦痛は本件事故による損害であり、同原告は慰藉料として五〇〇万円の支払を求める。

(五)  よつて、被告らに対し、被告五木田に対しては民法七〇九条に基づき、被告会社に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告佐藤幸子は六九〇六万円、原告佐藤魁は五〇〇万円、及びこれらに対する本件事故発生日である昭和六二年五月二五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを求める。

2  請求原因に対する被告らの答弁

(一)  請求原因(一)について

原告が、昭和六二年五月二五日午後一時六分ころ、被告会社の所有する被告五木田運転の加害車に乗客として乗車していたこと、同車が原告ら主張の藤沢駅バス停において停車したこと、被告五木田が乗客の下車が完了したと誤信したこと、原告が同車内で転倒したこと、以上の点は認め、その余は不知。

(二)  同(二)は、認める。

(三)  同(三)について

(1) (1)は、原告が主張の医療機関に入・通院して治療を受けたこと、後遺障害が残つたことは認め(ただし、その程度等は、次のとおりである。)、その余は不知。原告らは、原告の後遺障害は実質的には五級に相当すると主張する。しかし、後遺障害の評価は、障害の残つた身体の部位ごとに認定基準に該当するか否かを判断して等級を認定し、それが複数の場合には併合という方法によつて最終的認定をするのであつて、身体の全体象から等級評価を行うというものではない。そして、障害が複数認められるときでも、いずれか上位の等級によるべき場合がある。これを原告についてみると、その後遺障害は、左大腿骨頸部骨折により同部位に偽関節が残り、著しい運動障害を残すものとして七級一〇号に該当すると認定されたものである。同原告には右骨折による左下肢の短縮(これは八級五号に該当する。)が認められるが、それは、同一部位・同一原因により障害として上位等級である右偽関節についての認定等級に包含され、併合の対象とはされない。したがつて、原告の後遺障害については、原告ら主張のように日常生活に五級程度の障害があるとして全体象から等級判断がなされるというものではない。また、右後遺障害の症状固定日は、平成三年一月末日ではなく、平成二年六月二一日とみるのが相当である。

(2) (2)について

次のとおりであり、全体として争う。

<1> 治療費

後遺障害の症状固定日である平成二年六月二一日までの分に限られるべきである。けだし、症状固定とは、それ以上治療を続けても効果が生じない状態であるし、症状固定まで長期間を要し、十全の治療がなされている本件においては、症状固定後も特に治療を継続しなければならない特別な事情は存在しないからである。また、治療費とされている金額のほとんどの部分は、特別室を利用したことによる室料差額であるが、受傷内容及び治療内容からすると、特別室を利用しなければならない必要は認められない。なお、かかる治療費について、被告らはこれまでに六八八万五一〇〇円の支払をしてきているが、それは、原告らの特別室提供の要求が非常に強かつたため、対応に苦慮した被告らがやむを得ずこれを支払つてきたという事情によるものである。

<2> 付添看護費

ア 症状固定時まで

職業付添人に対する支払額のうち必要性の認められる相当な額については認める。

イ 症状固定時以後

本件後遺障害の程度からみて、症状固定後はリハビリテーシヨンによる自立を原則とすべきであり、付添看護の必要性は認められない。なお、甲第一三号証によつても、原告については、後遺障害そのものよりも糖尿病及び筋力低下が問題であると思われる。

<3> 入院雑費等

入院雑費については、入院が長期化していることに鑑み、一日につき一〇〇〇円とし、入院四八六日分として四八万六〇〇〇円が相当である。

<4> 交通費

原告が入院中の交通費は家族の交通費ということになるが、それは本来入院雑費に含まれるものであり、本件においても独立の費目として別個に認めるべき必要性は窺えない。なお、仮に認めるとしても、電車・バス等の運賃相当額が原則とされるべきであり、タクシー代金はその必要性がなければ認められるべきではない。

<5> 愛犬預託金

原告は独身ではなく、夫である原告佐藤魁が愛犬の世話をすることができたと考えられるから、相当因果関係の範囲外のものというべきである。仮に、他に預ける必要があると認められる場合であつても、親類あるいは友人に預けるなどして、被害者としても損害が拡大しないように協力すべきであり、主張の金額は、一か月九万円の割合によるものと思われるが、少なくとも相当額を超えるというべきである。

<6> 休業損害

原告は、魁産業の監査役として勤務し、月収二五万円の給料を得ていたとするが、原告佐藤幸子本人尋問の結果によれば、原告は魁産業で仕事をしたことはないし、監査役の肩書をもらつたこともない、ということである。税務対策上、役員の家族を名目上の役員としてその名義を使用することはよくあることであり、原告の年齢、あるいは原告はダンスを週に五日、しかも昼一時ころにしていたということからして、原告が監査役として勤務していた事実はないと推察される。したがつて、原告に対する休業損害としては、症状固定時までの家事労働に対する分の限度でこれを認めるのが相当である。

<7> 後遺障害による逸失利益

基礎とする収入は、六五歳以上の女子労働者の平均賃金を基準とするのが相当であり、症状固定時は平成二年であるから、賃金センサス平成二年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、六五歳以上の女子労働者の平均賃金である二六一万三三〇〇円(年額)とするのが相当である。労働能力喪失率は、後遺障害等級は七級と認定されており、鑑定によつても「軽度の障害」(七級)として差し支えないとされているから、五六パーセントとするのが相当である。労働能力喪失期間は、平均余命年数の二分の一である。中間利息の控除については右期間に対応するライプニツツ係数五・〇七六を適用するのが相当である。

したがつて、逸失利益は、次の計算のとおり、七四二万八四六二円とするのが相当である。

二六一万三三〇〇円×〇・五六×五・〇七六=七四二万八四六二円

なお、原告らは、実質的労働能力喪失率として、五級相当のものと同程度の率を主張している。しかし、労働能力喪失率の評価は、後遺障害の評価そのものに伴うのであり、主張のように、被害者の現状を極度に重視するとすれば、被害者の機能回復への熱意や態度によつて労働能力喪失率に違いが生じることになり、被害者に問題がある場合には、加害者に不当な不利益を生じさせる虞れがあるばかりか、判断が恣意的になるきらいがあり、相当ではないであろう。本件においては、原告は、事故当時既に七二歳であり、その職権や性別からしても、また、鑑定により「軽度の障害」として差し支えないとされていることからも、労働能力喪失率を特に高くみなければならない理由はない。

<8> 慰藉料

イ 入・通院による慰藉料

入院一六か月、通院二一か月であるが、このように治療が長期化したことについては、原告の体質的素因、回復への熱意・努力の不足等、原告側に問題があるので、二二三万円程度が妥当である。

ロ 後遺障害による慰藉料

本件事故当初の傷害より思いのほか後遺障害が重くなつたのは、右に述べたように原告側に問題があつたためと考えられるので、七四〇万円が相当である。

ハ 増額分・補完性分

争う。ⅰ 被告五木田は加害車を通常どおりに発進させたもので、著しい乱暴運転の事実は存しないこと、ⅱ 完全な補償をするからとの確約は存在しないし、本件事故について警察当局に届けずに処理した事実もないこと、ⅲ 治療において原告ら側にも問題があつたこと、ⅳ 鑑定により合併症にあまり関連性はないとされていること、ⅴ 抽象的に慰藉料の補完性ということからは何ら増額の理由は生じないこと、等によりこれを認めることはできない。

<9> 弁護士費用

争う。

(3) (3)は、認める。

(四)  同(四)について

争う。

3  被告らの主張(寄与度減責)

原告の損害の発生・拡大については、次のとおり、その体質的素因等が寄与しているから、損害の公平な分担の理念に照らし、被告らの責任を減じるのが相当である。

(一)  原告の傷害についての一般的治療方法

原告は本件事故により左大腿骨頸部骨折の傷害を負い、これによると後遺障害が残つたが、右傷害については、一般に手術が可能であり、手術が行われれば、骨癒合が得られ、概ね六か月で治癒又は症状固定が見込まれる。手術が行われず、保存的療法の方法がとられた場合でも一年で治癒又は症状固定が見込まれる。

(二)  原告の体質的素因等による手術の回避等

(1) ところが、原告については右の手術が行われなかつた。これは、当時の年齢のこともあると思われるが、原告に手術不適応の体質的素因があつたためである。すなわち、原告は、本件事故のかなり前から糖尿病と甲状腺機能低下症の持病を有しており、糖尿病、甲状腺機能低下症、肺炎、鬱状態により鈴木病院において入院治療まで受けていて、本件事故前の昭和六二年三月三一日に退院している。その間の治療状況をみると、検査のため夫の原告佐藤魁が角砂糖を水に溶かせて飲ませようとすると、強く拒否して興奮状態となり、自分自身の胸をたたき、「こんなに苦しいなら死んでしまう」旨大声でわめき、ヒステリー症を疑わせる態度をみせ、精神安定剤を投与されたりしている。右のようなことからすると、原告は基礎的に右の糖尿病等の体質的素因(以下、これを「本件体質的素因」という。)を有していたのであり、そのため、長期の糖尿病による血行障害、神経変性腎臓機能低下及び易感染性等、観血的手術や麻酔、そして回復に大切なリハビリなどの遂行に悪影響を及ぼす種々の糖尿病に続発する病態が存在していたからである。

(2) 手術が行われず、保存的療法によつた場合でも、一般には前記のように一年で治癒又は症状固定が見込まれるのであるが、原告については、治癒が遷延し、しかも、偽関節が形成されるなど、一般に考えられる程度をはるかに超える重い後遺障害が残つてしまつた。これは、原告が治療に協力的でなく、医師の指示どおりに安静を保たなかつたことによるものである。

(三)  以上を要するに、原告の左大腿骨頸部骨折の傷害は、<1> 本件体質的素因がなければ、手術が可能で、骨癒合が得られ、早期の治癒ないし症状固定が考えられたのであり(なお、被告らは、治療の途中においても、原告に対し、しかるべき医療機関で手術をすれば骨癒合を得られる可能性がある旨勧めたが、原告はこれに応じなかつた。)、<2> 保存的療法によつた場合でも早期の治癒ないし症状固定が考えられたにもかかわらず、それが果たされず、しかも偽関節が形成されるに至つたについては原告に帰責事由があり、これらの体質的素因等が原告の損害の発生・拡大に寄与しているものというべきであるから、原告の損害のうち右の寄与による分については被告らに責任がない。そして、以上の事情からすると、原告の寄与の割合は少なくとも六割とみるのが相当である。また、減責の対象は全損害とするのが相当である。

4  被告らの主張に対する原告らの反論

(一)  寄与度減責の主張全体について

(1) 特別の事情によつて生じた損害であつても、当事者がその事情を予見し又は予見し得べき場合には、これを基礎として因果関係の存在及び賠償範囲を考えるべきであることはいうまでもないところ、糖尿病や甲状腺低下症を患う者は人口の一定の割合を占めているのであり、交通事故の被害者がそのような体質的素因を有する場合があるということは、容易に予見し得る事柄であるから、原告に被告ら主張のような体質的素因のあつたことをもつて被告らの責任を減ずべきいわれはない。いわゆる素因考慮説をとつた裁判例もあるが、本件とは事案を異にしているし、被害者側の素因は原則として考慮すべきでないとする見解も強くなつてきている。なお、仮に寄与度減責を肯定する立場をとるとしても、その対象は治療費や慰藉料であり、逸失利益については行われるべきではない。

(2) また、原告は、受傷当時七二歳であつて、その年齢の点からしても何らかの病を持つているのは通常のことであるし、老人という特性そのものが受傷によつて多大の被害を生じさせたともいえる。すなわち、原告のような年齢の者が健康を保つには、適度な運動をするという生活のリズムが必要不可決なのであり、これが一旦崩れ、入院生活等を余儀なくされると、それだけで健康を損なうに至ることは周知の事実である。原告も、受傷前は健康保持のために毎週五回程度ダンスに通つて運動をし、かつ家事を担うことによつて健康な生活のリズムを保つてきていたのであり、それが受傷によつて一挙に崩されてしまい、完全な病人に帰してしまつたのである。糖尿病等の従前の体質的素因を考慮する余地など全くないというべきである。

(3) 被告らは、手術が可能だつたはずであるとか、原告が療養の努力を欠いていたなどと主張するが、違法な加害行為によつて極めて不自由かつ危険な生活を余儀なくされている原告に対して、誠にむごい主張としかいいようがない。原告は、当然のことながら、最も強く完全な回復を望んでいるのであり、生命の危険がないのであれば手術を最も望んでいたのも原告本人である。それにもかかわらず手術が行われなかつたのは、七〇歳を過ぎての手術はそれ自体が困難を伴うものであるし、医師の判断により生命の危険があるとされたからにほかならない。

(二)  寄与度減責の対象について

(1) 原告は、損害の填補として主張したとおり、被告会社から本件事故による損害について合計二〇七五万三八二七円の支払を受けている。その内訳は、治療費六八八万五一〇〇円、付添看護費六六三万五六六九円、入院雑費等一二七万二九三八円、交通費七七万五八〇〇円、愛犬預託費七二万円、休業損害四四六万四三二〇円、である。

(2) 右の各支払は、本件事故発生当初、被告会社が原告らに対し、本件事故を刑事事件としない旨の合意のもとに、完全な補償を約束し、それを履行したものであつて、事故と相当因果関係があるか否かはともかく、現に生じている損害の金額を損害と認めて支払つてきたものである。すなわち、本件事故については、原告の傷害の程度からして、被告五木田は業務上過失傷害罪により刑事事件として立件され、相当の刑罰に処せられるべきはずであつたところ、対外的信用を重んずる被告会社が、社員が刑罰に処せられることの不名誉や、新聞に取り上げられたりすることを恐れ、原告らに対し、個室使用料を含む治療費、付添看護費、休業損害はもとより、夫である原告佐藤魁の交通費、宿泊費(富士温泉病院分)、愛犬預託費、医師・看護婦への心付け等、本件事故によつて生じた損害は完全に補償するので刑事事件にすることは止めてほしい旨懇請してきたので、原告らはその言を信じ、敢えて警察沙汰にすることなく処理したのである。

(3) したがつて、仮に、寄与度減責の主張が認められることになる場合であつても、右の各既払額については寄与度減責の対象とすべきではない。

5  原告らの反論(二)に対する被告らの再反論

(一)  原告ら主張のような「完全な補償の約束とその履行」という事実はない。これは、原告らからの賠償についての質問に対し、被告会社は、「細部については治療終了後話し合いをすることとして、基本的には相当因果関係の範囲内の損害について賠償する」旨回答していることからも明らかである。そもそも、損害の全容が明確になつていない段階で相当因果関係の範囲を無視した完全な補償を約束するなどということは、経験則上考えられないところである。まして、被告会社のように、交通機関を営み、賠償についての知識・経験を有する場合はなおさらあり得ないことである。

(二)  仮に、原告ら主張のような約束があつた、あるいはまた、原告らの請求に沿う支払が当初なされたことがあるにしても、それは、当然のことながら、治療が長期化せず、短期に示談が成立する見込みがあることを前提とした道義的な意味合いのものと解されるから、治療が長期化し、示談が成立しない場合には白紙に戻されることになる。もともと、示談成立前の賠償金の一部支払は、被害者の早期救済の観点からの暫定的な仮払いの性格を持つものである。ところが、本件では、原告の体質的素因のため治療が長期化し、事故当初の見込みに反して示談が成立せず、訴訟で争われることになつたのであるから、原告らが支払済みとしているものを含む全損害について、いわゆる寄与度減責が問題となるものというべきである。

三  証拠関係

記録中の書証目録・証人等目録のとおりである。

理由

一  本件事故の発生と被告らの責任

当事者間に争いがない事実、成立に争いのない甲第二号証の一及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(一)の事実(本件事故の発生)が認められるところ、それについて被告らに原告ら主張の各責任原因があることは当事者間に争いがない。

二  そこで、原告ら主張の損害について判断する。

1  原告佐藤幸子の損害

(一)  受傷、入・通院及び後遺障害

当事者間に争いがない事実、前掲甲第二号証の一、成立に争いのない甲第二号証の二・三、第一三号証、乙第二ないし第四号証、原本の存在・成立に争いのない甲第二号証の四・五、原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、本件事故により、左大腿骨頸部骨折の傷害を受け、その治療等のため、昭和六二年五月二六日から昭和六三年九月二二日まで四八六日間、神奈川県鎌倉市所在の医療法人南浜会鈴木病院及び山梨県東山梨郡所在の財団法人山梨整肢更生会富士温泉病院に入院し、同入院中の昭和六三年九月三日神奈川県鎌倉市所在の医療法人湘和会湘南記念病院で診察を受けたうえ、同月二六日から現在まで同病院に通院している(なお、平成三年六月一五日までの通院実日数は一二四日である。)。

(2) 右の治療にもかかわらず、骨折について骨癒合が得られなかつたため、<原告には、平成二年六月二一日をもつて症状固定と診断された後遺障害として、左大腿骨頸部に偽関節が形成されたことによる著しい運動障害が残るとともに、右の偽関節が形成されたことによつて左下肢が六八センチメートルとなり、右下肢の七三センチメートルに比べて五センチメートル短縮した。

(3) 右の後遺障害により、原告は、左下肢に体重を負荷することが困難であるとともに、墜下性軟性跛行(体重が負荷されたときに股関節がしつかりつながつていないため、これを支えきれず、跛行の幅や受ける感じにばらつきが生じるもの)を呈して疼痛を伴い、かつ両下肢の筋力が低下しているため、歩行には、約三センチメートルの補高靴を装用したうえ常時両杖を必要としている。しかも、右の疼痛は高度であり、長時間の歩行はできず、また、日常生活上も付添介護を必要とする状態にある。そして、原告のこのような下肢の機能の回復の見込みはない。>

(二)  具体的損害額

右(一)を踏まえて具体的損害額を検討すると、次のとおりである。

(1) 治療費

弁論の全趣旨によれば、原告の治療費は平成元年一一月ころまでの間においてその主張の八八三万一〇七七円を下らないことが明らかであり、その全額を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

被告らは、治療費は後遺障害の症状固定日である平成二年六月二一日までの分に限られるべきであると主張するが、原告主張の治療費は右のとおり症状固定日前に係るものであるから、被告らの右主張は前提において失当である。また、被告らは、治療費のほとんどの部分が特別室を利用したことによる室料差額であるとし、特別室を利用しなければならない必要はなかつた旨主張するところ、弁論の全趣旨によれば、確かに原告主張の治療費には特別室利用による室料差額が含まれていることが窺われるけれども、同時に、被告ら主張のように原告らからの特別室提供の要求が非常に強かつたにせよ、被告らはそれに右の室料差額が相当に含まれていることを認識しながら、治療費として既に六八八万五一〇〇円を支払つてきていることが明らかであり、これに加えて、被告らは右治療費のうちの室料差額分の具体的金額を明らかにしようともしていないことをも合わせると、特別室の利用が直ちに不必要・不合理であつたとまでいうことはできず、被告らの右の主張も採用しない。

(2) 付添看護費

<1> 原告は、付添看護費の名目で、後遺障害確定前の付添看護費として一〇六五万五二七八円、右確定後の付添看護費として一七一三万円を主張しているところ、その内訳をみると、弁論の全趣旨によれば、前者は、昭和六三年九月二二日の退院に至るまでの入院中、職業付添人に付添看護を依頼したことによりこれに支払ったとする賃金合計五〇三万六六四四円(本項(2)において「A」という。)、それ以外のもの五六一万八六三四円(すべて退院後、平成三年一月までに係るもので、付添婦賃金として一四万一二五六円を計上しているほかは、家政婦の賃金である。)(右同様「B」という。)とを合わせた金額であり、後者(右同様「C」という。)は、原告において後遺障害の症状固定時とする平成三年二月一日以後の家政婦の賃金であることが明らかである。そして、弁論の全趣旨により原本の存在・成立を認める甲第四号証の一ないし八、弁論の全趣旨により成立を認める甲第九号証の一ないし五の各一ないし三、同号証の六の一・二、第一〇号証の一ないし三の各一ないし四、同号証の四の一ないし五、同号証の五の一ないし五、同号証の六ないし八の各一ないし四、同号証の九の一・二、同号証の一〇ないし一五、同号証の一六の一・二、同号証の一七ないし二二、同号証の二三の一・二、同号証の二四ないし二八、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし五、原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和六二年五月二六日から昭和六三年九月二二日までの入院中、職業付添人に付添看護を依頼し、その対価としてAを支払つたこと、退院後、平成三年一月まで、自宅における原告及び原告佐藤魁の日常生活のために家政婦を雇い、その対価としてBを支払つたこと、その後も右と同様の趣旨で一か月のうち相当期間にわたつて家政婦に日常の家事等を依頼することを続けており、現在までその対価として概ね一か月に一九万円程度の出捐をしてきていること、以上の事実が認められる。

<2> 原告の本件事故による受傷が左大腿骨頸部骨折であり、前記のような後遺障害の残存するに至つたものであることに鑑みると、<入院中、原告が治療に伴う付添看護を必要としたことは推認に難くないから、右のAはこれを本件事故による損害と認めるのが相当である。しかし、Bは、その実質は、要するに、常時両杖の使用を余儀なくされるような後遺障害に至る身体症状のために、自らの起居動作を含む日常の家事労働を満足になし得ないことに対する対価であり、損害としては、後記の家事労働分に対する休業損害及び慰藉料(入・通院慰藉料中の通院慰藉料及び後遺障害による慰藉料)として斟酌・評価されるべきものとみるのが相当であつて、これを右とは別に評価しなければならない独立の損害と認めることはできない。また、Cも、右と同様の趣旨において、後遺障害による逸失利益(その実体は、後記認定のとおり、後遺障害により労働能力が低下した程度に相応してこれを行うことができないことになる家事労働分の対価である。)と慰藉料によつて評価するのが相当であり、これらとは別の独立の損害と認めることはできない。>すなわち、原告が本件事故による受傷及び後遺障害のために日常生活上付添介護を必要とする状態にあり、現に家政婦を依頼していることは前記認定のとおりであるが、原告の場合、「日常生活上付添介護を必要とする状態にあること」による損害というのは、本件事故に遭わなければ、他人の手を借りず自分の労力のみでできたであろう自分自身の身の回りの始末を含む家事労働を行うことができないことによる財産的損失と、それに伴う精神的苦痛であり、前者はまさに家事労働分に対する休業損害ないし逸失利益そのものであり、後者は慰藉料として斟酌されるべき問題と解するのが相当であるからである。

<3> したがつて、本件事故による損害としての付添看護費はAの五〇三万六六四四円の限度で認めるのが相当であり、その余は採用できない。

(3) 入院雑費等

原告は、入院雑費等として二〇三万八五七八円を主張しているところ、弁論の全趣旨によれば、それは、大部分がいわゆる入院雑費からなる雑費一三二万三五七八円、平成三年二月一日以後の損害としての雑費五四万円、その他一七万五〇〇〇円、であるが、その各明細は明らかでなく、当裁判所は、入院一日につき一二〇〇円の割合による四八六日分五八万三二〇〇円の入院雑費の限度で損害と認める。

(4) 交通費

原告は、交通費として一七七万一三六〇円を主張しているところ、弁論の全趣旨によれば、その内訳は、原告入院期間中に近親者が見舞い等のために要した交通費六〇万五〇〇円、原告退院後その通院のための原告自身及びこれに付き添つた者が必要とした平成三年一月までの交通費三八万八六〇円、その後における右同趣旨のものとして見込まれるものを含む交通費七九万円、であると推認される。右各金額の明細は明らかでないが、現に必要とした前二者合計九八万一三六〇円は、原告の立場・年齢(後記のとおり、大正四年一一月二〇日生まれの主婦で、本件事故当時七一歳であつた。)、その傷害及び後遺障害の内容・程度、入・通院期間等に鑑みると、社会通念上、特に不当に高額ともいえないから(入院期間中の六〇万五〇〇円は一か月当たりにすると約三万七五三一円であり、通院に係る三八万八六〇円は一か月当たりにすると約一万三六〇二円である。)、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。しかし、その余の七九万円は、原告が通院のために付添いの者の分を含む一定の交通費の出捐を余儀なくされるであろうことは推認に難くないものの、これを算定するための基礎事実(予想される通院の頻度や一回の通院に要する費用等)が全く明らかにされていない本件にあつては、交通費としては認めることはできず、出捐を余儀なくされるであろうことは慰藉料算定の一つの事情として斟酌することをもつて足りるというべきである。

なお、被告らは、入院中の家族の交通費は入院雑費に含まれるもので、独立の費目として別個に認めるべき必要性はないと主張するが、そのように解さなければならない理由は存しない。

(5) 愛犬預託金

弁論の全趣旨により成立を認める甲第一一号証の一ないし六、原告佐藤魁本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、本件事故当時原告宅では二匹の犬を飼つており、原告の入院に伴い、昭和六三年一〇月九日までこれを鎌倉第二警察犬訓練所に預託し、その費用として合計一三二万三〇〇〇円を支払つたことが認められる。しかし、後記認定のように原告は夫の原告佐藤魁と生活を共にしていたものであるところ、原告でなければ犬の世話が全くできなかつたと認めるべき事情も、原告佐藤魁が原告の入院期間中常に原告に付き添うなどして犬の世話を全くできない状態にあつたとまで認めるべき事情も存しないから、右金額の約半分である六五万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(6) 休業損害

原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大正四年一一月二〇日生まれの女性で、夫の原告佐藤魁と二人で暮らしており、家庭の主婦として家事に従事していたことが認められるところ、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証の一・二及び弁論の全趣旨によると、原告は、本件事故当時、原告佐藤魁の経営する魁産業の監査役とされ、昭和六二年一月から四月までは毎月五〇万円、五月は二五万円をその報酬として支給されたことになつており、本件事故のために同年六月三日これを辞任したとされていることが認められる。しかし、原告本人尋問の結果によれば、右の監査役というのは単なる名目にすぎず、監査役としての仕事をしたことは全くないことが明らかである。仮に、右の報酬が実際に支給されていたとすれば、それは魁産業から贈与を受けていたものというべきである。原告佐藤魁は、成立に争いのない甲第八号証において右本人尋問の結果を否定するが採用の限りでない。

したがつて、原告の休業損害は家事従事者のそれとして考えるべきであり、収入は、その年齢に応じて、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者六五歳以上の年収額二四四万三〇〇円、休業損害の対象となる期間は、受傷による入院から後遺障害の症状固定の平成二年六月二一日までの約三七か月、家事労働に従事できなかつた程度は入院期間中の約一六か月は一〇〇パーセント、その後の症状固定に至るまでの約二一か月は、後記認定の労働能力喪失率に照らし、六〇パーセントとしてこれを算定するのが相当であるから、これによる計算に基づく五八一万六〇四八円(円未満四捨五入)をもつて相当と認める。

(7) 後遺障害による逸失利益

<1> まず、後遺障害による労働能力低下の程度については、原告の後遺障害の程度は、いわゆる事前認定において自動車損害賠償保障法施行令別表の七級一〇号に該当するものとされ(これは弁論の全趣旨により明らかである。)、鑑定嘱託の結果によると、鑑定嘱託を受けた東海大学医学部付属病院において鑑定を担当した同大学医学部整形外科の竹内秀樹医師も、原告の障害等級について、「股関節は偽関節を呈し大腿は上方に転位している。これは股関節の脱臼と同様であると見做される『軽度の障害』(七級)として差し支えない。」と診断しているところ、労働省労働基準局長通牒の労働能力喪失率表は右七級に対応する労働能力喪失率を五六パーセントとしていること、原告について労働能力の低下を問題とする対象は家事労働であること、さらには原告の年齢等の事情を総合勘案すると、これを六〇パーセントと評価するのが相当である。

原告は、その後遺障害が七級一〇号に該当することは一応是認しながらも、歩行に常時両杖を必要とすること等による日常生活上の不便さを強調し、それは実質的には少なくとも五級に相当するから、労働能力喪失率は五級に対応する七九パーセントと評価すべきである旨主張する。しかし、これは、原告の後遺障害が五級五号の「一下肢の用を全廃したもの」と同視すべきものであることを主張するものと解されるが、右の「一下肢の用を全廃したもの」とは、一般に、「三大関節(股関節、ひざ関節及び足関節)及び足指全部の完全強直又はこれに近い状態にあるもの」、又は「三大関節のすべての完全強直又はこれに近い状態にあるもの」のいずれかに該当する場合をいうものと解されているのであり、原告の後遺障害が右の場合と同視すべきもの、あるいはそれに準ずるものとまでみるのは無理である。なお、原告は、後遺障害による逸失利益の対象を家事労働による得べかりし利益ではなく、魁産業の監査役の退職を余儀なくされたことによる得べかりし所得と主張している。仮に、原告の逸失利益をこの主張どおりに考えるべきものとすれば、一般に監査役の仕事は机の前で行う頭脳労働であるから、原告の後遺障害はさほど労働能力の低下をもたらすものでないことになる。

<2> そして、<右認定の程度の労働能力喪失の期間は、原告の年齢に鑑みると、症状固定当時の簡易生命表による平均余命年数の約半分である六年と考えるのが相当であり、また、基礎とする収入は、症状固定時である平成二年の賃金センサス第一巻第一表の産業計、企業規模計、学歴計、女子労働者六五歳以上の年収額二六一万三三〇〇円によるのが相当である。

<3> 右により、中間利息の控除について六年に対応するライプニツツ係数五・〇七五六を適用して計算すると七九五万八四三九円(円未満切り捨て)となる。これを原告の後遺障害による逸失利益と認めるのが相当である。>

(8) 慰藉料

<1> 入・通院による慰藉料

入院期間は約一六か月であり、症状固定に至るまでの通院期間は約二一か月であること、前掲乙第三・四号証によつて認められる次の事実、すなわち、右入院期間のうち、約六か月間は前記富士温泉病院に入院していたものであるところ、同病院への入院は主としてリハビリテーシヨンを目的としたもので、入院中は歩行訓練を主体としたリハビリテーシヨンが施行されていること、また、通院も主としてリハビリテーシヨンを目的とし、実際に通院した一一〇余白の大部分がリハビリテーシヨンのためについやされていること、その他前記認定・説示の各種事情を総合勘案すると、入・通院による慰藉料としては、三〇〇万円をもつて相当と認める。

なお、被告らは治療が長期化した原因は原告にあるとするが、この点は後記の寄与度減責について判断するとおりである。

<2> 後遺障害による慰藉料

後遺障害の内容・程度、その他前記認定・説示の各種事情を総合勘案すると、後遺障害による慰藉料としては八〇〇万円をもつて相当と認める。

被告らは、当初の傷害より思いのほか後遺障害が重くなつたのは原告側に問題があつたためであると主張するが、この点は後記の寄与度減責について判断するとおりである。

また、原告は、慰藉料の増額分・補完性分として四三六万円が認められるべきであるとし、ⅰないしⅴの五つの事由を挙げている。しかし、ⅱ及びⅳの各事実は、いずれも後記の寄与度減責について判断するとおりであつて、これを認めるに足りず、その余のⅰ、ⅲ及びⅴは、仮にそのような事情があるとしても、ⅲは、前記認定の慰藉料額の判断において既に斟酌したものを超えるものではないし、ⅰ及びⅴは、それだけでは特に右の慰藉料額を増額しなければならないほどのものとはいえない。

(9) 弁護士費用

本件事故と相当因果関係のある原告の損害としての弁護士費用は一七〇万円をもつて相当と認める。

(10) 以上のとおりであるから、原告に生じた損害は合計四二五五万六七六八円である。

2  原告佐藤魁の損害

前掲甲第八号証、原告ら各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告佐藤魁(明治三八年一二月生まれ)は、原告の夫であり、昭和四七年から肩書住所において原告と二人で生活を営み、時には二人で旅行をするなどいわゆる老後の生活を楽しんでいたこと、原告は、後記のように糖尿病及び甲状腺機能低下症という持病を抱えてはいたものの、格別日常生活に差し支えるほどのことはなく、家事万端をこなしていたこと、<ところが、原告の本件事故による受傷、長期にわたる入・通院、後遺障害等のため、事故前とは生活が一変したこと、以上の事実が認められる。これと、前記認定の原告の傷害の内容・程度、入・通院状況、後遺障害の内容・程度、原告らの年齢等を総合勘案し、事故後現在までの労苦や原告とのこれからの人生に対する思いを慮かると、原告佐藤魁が極めて多大の精神的苦痛を既に被り、今後も被り続けるてあろうことは推認に難くない。原告佐藤魁は、「人生最後の生きがいを喪失させられた状態である」としているが、誇張とはいえない。このような原告佐藤魁の精神的苦痛は、原告が生命を害された場合にも比肩し得る面があり、原告佐藤魁は、民法七〇九条及び七一〇条に基づき、自己の権利として本件事故による慰藉料を請求できると解するのが相当である。そして、その額は、一〇〇万円をもつて相当と認める。

したがつて、原告佐藤魁に生じた損害は一〇〇万円である。>

三  被告らの寄与度減責の主張について判断する。

1  事実関係

(一)  成立に争いのない甲第六号証、前掲乙第二号証、鑑定嘱託の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、本件事故により原告の受けた左大腿骨頸部骨折という傷害については、早期離床を目指して早期に手術的に加療を施すのが治療の原則とされていること、手術が行われた場合には、骨の癒合が得られ、一概にいえないものの、二か月の免荷期間をおき、以後、徐々に部分体重負荷をかけさせて、概ね手術後六か月で骨頭壊死などの併発症が起きなければ治癒又は症状固定に至ること、ところが、原告については、骨折の部位・程度自体は右の手術的加療の適応状態にあつたが、手術は行われず、保存的療法が採用されたこと、それは、原告は長年にわたつて糖尿病及び甲状腺機能低下症などを患つており、しかも血糖値のコントロールができていなかつたためであること、すなわち、糖尿病がある者についての右の手術の適応の有無は、血糖値のコントロール状態が問題であり、コントロール不良の場合における手術は、手術局所の合併症(例えば、感染、骨癒合不全、縫合不全等)はもとより、全身的な重篤な合併症を発生させやすく、生命的な危険に結びつく虞れがあるとされている(コントロール不良状態での手術施行後死亡率は二五パーセントとされている。)ことから、原告については、危険な要因が多すぎて主治医としても手術を諦めざるを得なかつたことによるものであること、以上の事実が認められる。

(二)  そして、右の保存的療法によつた場合に関して、鑑定嘱託の結果及び前掲甲第六号証によると、鑑定を担当した前記竹内医師は鑑定事項に対し、また、原告が入院治療を受けた前記鈴木病院の佐々木院長は原告訴訟代理人の照会事項に対し、それぞれ次のような見解を述べていることが認められる。その要旨は次のとおりである。

(1) 竹内医師

<1> 【鑑定事項】

原告につき、保存的療法が妥当であると考えた場合、糖尿病及び甲状腺機能低下症等の持病がなかつた場合は、症状固定までにどのくらいの治療期間が必要か。

【鑑定結果】

三か月間固定ないし安静とし、六か月目から部分体重負荷、一年で治癒又は症状固定とする。

<2> 【鑑定事項】

原告につき、保存的療法が妥当であると考えた場合、症状固定期間の長短について、七二歳という年齢的素因はどのくらいあるか。

【鑑定結果】

症状固定までの長短に年齢は影響しない。受傷前の患者の一般状態や合併症の程度による。

<3> 【鑑定事項】

原告の場合、大腿骨頸部骨折以外の糖尿病及び甲状腺機能低下症等の持病が長期治療に影響した寄与度は何割くらいとみられるか。

【鑑定結果】

本症例で何が問題かといえば、骨折部に骨癒合が得られず、転位して偽関節となつたことで、そのために左下肢が短縮し、それに伴い筋肉が短縮して筋力が落ちてしまつたことである。本骨折は転位は少なく、保存的でも骨癒合を得られる可能性はある。一方、手術を断念した時点で、スピードトラツク牽引による保存的療法は一般的な療法であるが、カルテでみると、随所に患者側の訴えが強く前面に出、必ずしも医師の指示どおり安静が保てなかつたようであり、この安静保持が保てなかつたことが偽関節形成に影響を及ぼしたと思われる。当然、高齢者で骨萎縮があり、さらに糖尿病がある場合、骨癒合の条件としてはあまり良くないが、決して不可能ではない。

(2) 佐々木院長

【照会事項】

原告につき、保存的療法による治療期間の長短について、七二歳という年齢的素因はどのくらいあつたと考えられるか。

【回答】

観血的手術を諦めた時点で、積極的に偽関節形成を意図し、早期からリハビリテーシヨンを行い、杖歩行をゴールと考えて治療したが、七二歳という年齢は、若年者に比べ、リハビリテーシヨンに対する意欲及びその効果がどうしても劣るので、治療期間は長くなつたと考える。

2  判断

右事実関係に基づいて、以下、判断する。

(一)  まず、手術が行われなかつた関係について考えると、原告について前記認定のような治療期間を必要とし、しかも七級に該当するような後遺障害が残つたについては、手術が行われなかつたことに相当程度の原因があるところ、手術が行われなかつたのは、専ら、原告がかねて糖尿病の持病を有しており、しかもそのコントロールの状態が不良であつたことに起因することが明らかである。原告に糖尿病の持病がなく、あるいはあつてもコントロールの状態が手術適応といえる程度に良好であれば、手術が施行されて概ね六か月で治癒又は症状固定に至り、かつ、後遺障害が残つたとしても、現に原告に残つたようなそれよりは軽い程度のものに止まつた可能性が強いとみることができる。このような観点からすると、<原告が糖尿病という持病を有し、しかもそのコントロール状態が不良であつたという体質的素因が、本件における損害の発生・拡大にかなりの程度寄与していることになる。

しかしながら、原告は、本件事故に遭うまでは、コントロール不良状態の糖尿病という体質的素因を有しているにしても、格別のこともなく家事万端を行い、夫と共に年齢相応の通常の生活を送つていたのであり、本件事故さえなければ、そのような状態が続いていたはずである。そして、交通事故による損害賠償として回復されるべきものは、理念的には、事故前の生活状態とそれを前提として予想されるその後の生活であるから、これを現実化する作業としての損害賠償額の算定においては、右のような体質的素因は、少なくとも、それが事故前にそのような身体的状況にあつたにすぎないという限度にとどまる場合は、例えば、事故当時高齢であつて若年者とは違う身体的状況にあつたような場合とことの実質において異なるところはなく、右の予想の範囲内で斟酌すること(例えば、体質的素因のゆえに余命年数を短く認定すること等)を超えては、これを考慮すべきいわれは原則として存しないと解するのが相当であり、原告についてこの原則の適用外とみなければならない事情の存在を認めに足りる的確な証拠はない。

したがつて、手術不適応の体質的素因を理由とする寄与度減責の主張は採用しない。>

(二)  次いで、保存的療法の関係について考えると、手術が行われず、保存的療法によつた場合でも、原告の前記体質的素因がなければ、一年で治癒又は症状固定に至つたであろうこと、しかも、原告の骨折の部位・程度からすると、一般的に骨の癒合が得られる可能性があり、原告のように高齢で骨萎縮があり、しかも糖尿病がある場合でも、条件としてはあまり良くないが、決して骨癒合を得ることが不可能ではなかつたこと、そして、原告の治療とその結果においても最も問題なのは、骨折部に骨癒合が得られず、転位して偽関節が形成されたことであること等が明らかであるところ、右の偽関節が形成されるに至つたについては、保存的療法の過程において、必ずしも医師の指示どおりに安静が保たれなかつたことが影響を及ぼしているものと認められる。また、治療期間が長期化したについては、その年齢の点もあつて、リハビリテーシヨンに対する意欲に劣る面があつたことが影響していることが認められる。

右によれば、<体質的素因自体に起因する点は前記(一)で説示した理由によりこれを考慮することはできないが、偽関節の形成ないしは治療期間の長期化については、その年齢的なことに由来すると思われる部分を斟酌しても、なおこれを超える程度において、事故後における原告の態度・行動なり心因的要因が悪影響を及ぼしていないとはいえないというべきであり、かかる事情は、本件における治療期間の長期化及び後遺障害の内容・程度の重大化に寄与したものとして、損害賠償法における過失相殺の法理に照らし、被害者側の過失に準じてこれを斟酌するのが相当である。

問題は、斟酌の程度、すなわち減額の割合如何と、減額の対象とする損害項目如何、である。まず、減額の割合は、これを数学的厳密さで解明するのは不可能に近いといわざるを得ないが、少なくとも、原告についての実際の治療期間及び後遺障害の内容・程度等との対比において、前記の寄与がなければそれより短い期間で治療が終わり、かつ、後遺障害の内容・程度も軽いもので済んだ可能性が大きかつたとみることができること、その他本件に現れた諸般の事情を勘案し、原告に生じた損害の一割をもつて相当と認める。次に、減額の対象は、本件において原告の主張する各種の損害は、いずれも治療期間及び後遺障害の内容・程度と密接不可分的に関係しているから、その全部に及ぶと解するのが相当である。>

(三)  右説示の限度で被告らの寄与度減責の主張は理由がある。したがつて、原告の損害は、前記認定の損害合計四二五五万六七六八円から一割を減じた三八三〇万一〇九一円(円未満切り捨て)となる。

(四)  原告は、仮に、寄与度減責の主張が認められることになるとしても、被告会社は、本件事故当初、原告らに対し、本件事故によつて生じた損害について完全な補償をすることを約し、その履行として、事故と相当因果関係があるか否かはともかく、現に生じている損害の金額を損害と認め、治療費として六八八万五一〇〇円、付添看護費として六六三万五六六九円、入院雑費等として一二七万二九三八円、交通費として七七万五八〇〇円、愛犬預託費として七二万円、休業損害として四四六万四三二〇円、合計二〇七五万三八二七円を支払つたのであるから、この各既払額については寄与度減責の対象とすべきではない旨主張する。そして、弁論の全趣旨によれば、被告らが、被告会社において右主張の各名目の各金額を本件事故による損害として支払つていることが明らかであり、前掲甲第八号証及び原告佐藤魁本人尋問の結果中には、右主張に沿う部分がある。しかし、成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、原告佐藤魁から、本件事故による損害賠償について書面で回答することを求められたのに対し、事故後間もなく昭和六二年六月六日、「細部については治療終了後話し合いをさせていただくが、基本的には、自動車保険支払基準により適正・誠実を旨として賠償する。相当因果関係のあるものについては、社会通念上、適正・妥当な形で支払う」旨、書面で回答していることが認められるのであり、この事実に照らすならば、原告の主張する「完全な補償の約束」といつたことは到底考えられないものというべきであるとともに、前記各名目の各金額が支払われたといつても、それは、被告らのいうように、被害者の早期救済の観点からの暫定的な仮払いの性格を持つものとみるのが相当であつて、各名目にも格別厳密な意味合いはないものというべきである。したがつて、前掲甲第八号証及び原告佐藤魁本人尋問の結果中の右の部分はにわかに採用できず、原告の右主張は理由がない。

四  損害の填補

原告がその損害について被告会社から合計二〇七五万三八二七円の支払を受けていることは当事者間に争いがないから、これを原告の前記認定の損害三八三〇万一〇九一円から控除するのが相当である。したがつて、原告の残損害は一七五四万七二六四円となる。

五  結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、原告については一七五四万七二六四円、原告佐藤魁については一〇〇万円、及び右各金員に対する本件事故日である昭和六二年五月二五日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は失当である。

よつて、民事訴訟法八九条、九二条、九三条、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞)

別紙(一) 損害額内訳表(1)別紙(二) 損害額内訳表(2)別紙(三) 損害額内訳表(3)別紙(四) 損害額内訳表(2)と(3)の差額表別紙(五) 損害額内訳表(5)別紙(六) 損害額総計表

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